著者:綾里けいし イラスト:るろお
★★★★★
今回は「アリストクライシ」という本を紹介します。
著者は「B.A.D」「異世界拷問姫」の綾里けいし先生です。
両親を殺され、その復讐のために旅をしている化け物の少女と、人間から迫害され、生きたまま埋葬された化け物の青年が紡ぐ、2人ぼっちのダークファンタジー。
私は、世界から弾きだされた2人が、寄り添いながら互いの孤独を埋め合う。みたいな物語がすごく好きで、この作品はそのジャンルの中でも特に好きな作品の一つです。
生きたまま埋葬された青年を掘り出したのは、一人の美しい少女だった。心を持たないからと、人間から忌み嫌われ『名前のない化け物(グラウエン)』と呼ばれた彼に、少女エリーゼは微笑み手を差しのべ、告げる「私はずっと、貴方を探していたのかもしれませんね」。彼女もまた『穴蔵の悪魔(アリストクライシ)』と呼ばれる別種の化け物だった。だが彼女は、一族を激しく憎み『穴蔵の悪魔』を殺すためだけに生きていた――儚く哀しい化け物達の闘争を描いたダーク・ファンタジー開幕!
以下、ネタバレを含む感想です。
その不死性と名前のない化け物「グラウエン」との類似性から人間に迫害され続け、ある事件の折に生きたまま埋葬された青年。彼を墓の下から掘り返したのもまた、理不尽な迫害を受けた化け物の少女だった。彼女はエリーゼ・ベロー穴蔵の悪魔「アリストクライシ」と呼ばれる種類の化け物だ。
彼女は両親を奪われた復讐のために同族殺しを行っていた。敵もまたアリストクライシ。『賜り物』と呼ばれる異能と『領地』と呼ばれる異空間を作り出す力を持った超常の存在だ。行く当てのなかった化け物の青年。後にグランと名付けられる彼はエリーゼに同行を求め、彼女の復讐に協力することになる。
2年後、彼らは7人の人間が失踪した街を訪れる。「―――この街は、何かがおかしい」
失踪者7人の内、3人の死が確認され、残る失踪者はあと4人。しかし、街の住人は失踪者を心配する必要は無いという。曰く、この街では病人や悪人は消える。病人は治癒された状態で帰還するが、悪人は消失するという。奇跡に守られた街は歪な幸福に満たされていた。
「飢えがない、病がない、悪がない―――だが、それは正常か?」
街に留まり、調査を続けるエリーゼとグラン。しかし、事態は様々な要因で複雑さを増し、2人は図らずも自らの過去と対面することになる。そんな話。
丁寧に作りこまれた何もかもが私に刺さる作品。章の合間に挟まれる2人の過去も、最後にもう一度繰り返される2人の出会いも良い。冬の情景、人間の愚かさ、化け物の残虐さ、世界の冷たさ。その中でも温かな2人の絆。互いの心を思いやる穏やかなものでもありながら、自分が壊れないための共依存であるのもすごく良い。
グランが化け物の悪意と人間の愚かさに、怒りや殺意を覚えながらも、エリーゼとの日々を思い出し、涙がすべてを押し流していく場面は素晴らしかった。
化け物と呼ばれた少女と、とある化け物の結末も最高。
綾里けいし先生の作品を読むのなら、是非これからと勧められる一冊です。