吸血鬼に天国はない/感想/周回遅れの人生録

著者:周藤 蓮 イラスト:ニリツ

★★★★★

今回は「吸血鬼に天国はない」という本を紹介します。

著者は「賭博師は祈らない」の周藤 蓮様です。

期待を裏切り、壊れていく日常に衝撃を受け、振り回され、最終的には期待を超える美しい結末を見せてくれた、素晴らしい作品だった。

大戦と禁酒法によって旧来の道徳が崩れ去ったその時代。非合法の運び屋シーモア・ロードのもとにある日持ち込まれた荷物は、人の血を吸って生きる正真正銘の怪物――吸血鬼の少女であった。仕事上のトラブルから始まった吸血鬼ルーミー・スパイクとの慣れない同居生活。荒んだ街での問題だらけの運び屋業。そして、彼女を付け狙うマフィアの影。彼女の生きていける安全な場所を求めてあがく中で、居場所のないシーモアとルーミーはゆっくりと惹かれ合っていく。嘘と秘密を孕んだ空っぽの恋。けれど彼らには、そんなちっぽけな幸福で十分だった。人と人ならざる者との恋の果てに、血に汚れた選択が待ち受けているとしても。

非合法の運び屋と天涯孤独の吸血鬼の共棲を描くファンタジーロマンス、開幕。

以下、重大なネタバレを含む感想です。

 

個人の運び屋シーモア・ロードは運ぶ物の詮索を行わないこと、必ず届けることを売りとし、社会での価値を確立していた。その彼に銀髪の少女ルーミー・スパイクを届けるという依頼を引き受ける。しかし、到着先でトラブルに巻き込まれ、彼女が吸血鬼であることを知ってしまう。

頼る当てのない彼女を見かねて、彼女を安全なところまで連れていくという依頼を、彼は半ば強引に取り付けた。そして、彼女を襲撃したマフィアを特定するまで、家代わりのガレージに彼女を匿い、2人の共同生活が始まる。物語の冒頭はこんな感じ。

 

最初は人として少し壊れてしまった運び屋と、社会から孤立している吸血鬼の少女が、互いの孤独を埋めあいながら、惹かれあっていくような物語なのかなと思っていた。

だが違った。ルーミーは大幅に人間とはかけ離れた価値観、精神性を持った怪物だった。彼女が魅力的で、彼女との生活が楽しかったからこそ、たった1つの事実で今まであった日常にひびが入り、徐々に綻んでくるのは恐怖でしかなかった。

だけど、だからこそ、終盤でシーモアが気付いた2つの事実で、真実が見えた時に感じた安堵は、とても大きなものだった。よかった。

シーモアは父を亡くし、正しさが分からなり「価値」というものに拘っていた。世界に正しさは無いと諦めながら、価値なら得られるんじゃないかと足掻いていた。仕事の達成率も、コーヒーを飲むことも、2番目に安いタバコも、自身の価値を補強するためのものだったのだろう。

だから、ルーミーとの出会いは転機だった。依頼人と運び屋という上っ面の関係ではなく、1人の人間として、1人の吸血鬼に向き合い、自身の価値を示すことができた。それは足掻いてきた彼にとって十分すぎる救いだったのだと思う。

 

さて、この人間と吸血鬼の恋愛はどういった結末を迎えるのだろうか、ルーミーは優しい怪物だった、傷つかない訳じゃなかった、孤独に凍えない訳じゃなかった、血は温かった。それでも、彼女は怪物だ。なにもかも簡単にいくことなどありえないだろう。2巻も期待している。

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